浦河べてるの家創設者で北海道医療大教授の向谷地生良(むかいやち・いくよし)さんが11月27日、札幌市教育文化会館で「心の危機からの回復」をテーマに講演しました=写真=。北海道いのちの電話主催の市民公開講座で、心の病を患った当事者5人も登壇して、回復するコツを語りました。
向谷地さんは、浦河赤十字病院にソーシャルワーカーとして勤務して40年になります、精神障がいを経験した若者たちと浦河べてるの家を設立し、当初は、べてるの家のお祭りとして、当事者が病を面白おかしく発表し、表彰するイベントを催していました。2012年に東大から一緒に研究しようと持ち掛けられ、今や「当事者研究」として精神医療や臨床心理学で注目されています。年間2000人近い視察者が全国や海外からも訪れています。
この日は、「仲間づくり」をキーワードに、若くして心の危機を経験した男女5人が向谷地さんとやりとりしながら、最も危険だった時期やそこからの回復について話しました。それぞれ統合失調症やうつ病、発達障害、解離などと診断されましたが、べてるの家では、医者のつける病名より、その人が何に苦労しているかを重視します。これを「苦労の専門分野」と呼び、「子ども帰り」「昔の苦労がよみがえるタイプ」「バツをつけ安心するタイプ」など、当事者の言葉で表現しました。
回復のポイントについては「自分の病を含めて、みんなが普通に病を語り、人とつながる。仲間の力が大きかった」「医者やほかの人に治してくださいではなく、自分がこういうことで苦労していると発信して、知ってもらうと安心感が生まれた。自分も情けないところも弱いところもあっていいと実感した」などと語りました。向谷地さんはこれを「弱さの情報公開」と呼びました。
ほかにも「自分を求めてくる人を大事にする」「自分一人で頑張らない。いろいろな人に頼っていく中で良くなる」「笑えたら自傷が止まった」という教訓も話されました。
向谷地さんは「これまで治療対象だった人たちが、一人で抱え込まず、今、こういう状態だと人に言えるようになり、仲間で自分たちを研究するようになった。回復手段は、病院にあるのではなく、人との関係の中に眠っている」と言います。当事者研究は近年、世界的な流れになっており、イギリスなど欧州では薬を使う医療と使わない療法を患者が選択し、当事者研究のような対話をして、まず薬に走らない方が主流になりつつあるそうです。日本の現場ではまだですが、精神科医は当事者研究を知っており、「あとは、みんながやるだけ」と願っていました。